高齢者インプラント治療の考慮すべきことや疑問を包括的に解説します!

高齢者インプラント治療の考慮すべきことや疑問を包括的に解説します!

高齢者におけるインプラント治療は、失われた歯の機能の回復だけでなく、質の高い生活(QOL)の向上にも寄与しますが、適切な情報と理解が必要です。

本記事では、高齢者を対象に、インプラントの基本的な説明から、治療の流れ、インプラント手術の費用、メリットとリスク、インプラント治療後のメンテナンスなど網羅的に解説します。

特に、高齢者特有の注意点、インプラントが高齢者のどのようなニーズに応えるのかを、具体的に解説していきます。

インプラントの構造

インプラントとは、歯を失った部分に人工的な歯根を埋め込む歯科治療法です。

この方法は、天然の歯に近い形で機能を回復させることができるため、全世界で広く用いられています。

具体的には、失った歯の部分の顎骨にチタン製のネジ(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯(上部構造)を取り付けるプロセスを経ます。

インプラントには高い技術が求められ、適切な施術を受けることで長期にわたり快適な咬合機能を得ることが見込まれます。

歯科に関わらず医科でも整形外科の人工関節や美容外科で入れるシリコンもインプラントと呼ばれます。

高齢者がインプラントを行う際に特に考慮すべき疾患5選

高齢者のインプラント画像

心臓や脳血管の疾患

  • 脳梗塞
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 心臓弁膜症など

心臓病、脳血管の疾患の人はワーファリンなど血液をサラサラにする抗凝固剤のお薬を服用されていると思います。

インプラントは歯茎を切開して骨に穴を開ける手術になりますので術中、術後に血が止まりづらくなる可能性が考えられます。

また、薬の服用を一時中止して手術を受けて頂く必要がある場合もありますので、しっかりと内科の主治医と連携を取って下さい。

骨粗しょう症

特に閉経後の女性に多い疾患の骨粗しょう症は、ビスホスホネート製剤(BP製剤)という薬を服用していることが多いです。

BP際剤は骨を強くするお薬ですが、副作用として細菌感染を起こしてしまうと、顎の骨が壊死しまうリスクがあります。

BP製剤を服用している人は、心臓病や脳血管の疾患と同様、薬の服用を一時中止して手術を受けて頂く必要がある場合もありますので、しっかりと内科の主治医と連携を取って下さい。

糖尿病

糖尿病の人は抵抗力が弱いので感染しやすく、傷が治りづらいのでインプラント治療の場合は特に注意が必要です。

一般的なインプラントの基準となる値

空腹時の血糖値は140mg/dl以下(食後は200mg/dl以下)

・HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)6.9%以下

そして糖尿病の合併症として歯周病があげられますので歯周病も気を付けなければなりません。

天然歯が歯周病の場合は術後直後に細菌感染を起こしてしまい、腫れてしまう事があります。

また、インプラント周囲炎に罹患してしまう可能性がありますので、糖尿病をお持ちの人は歯周病菌のコントロールが必須となります。

高血圧症

基本的に診察室血圧の場合、140/90mmHgまたは家庭血圧が134 /84mmHg以上の場合で高血圧症と診断されます。

一般向け高血圧ガイドライン
高血圧治療ガイドラインより画像引用

インプラント治療の場合必ず麻酔をしますが、麻酔薬にはエピネフリンという血管収縮剤が入っていますのでインプラント治療というプレッシャーと重なって血圧が高くなってしまい、眩暈や動悸などの症状が出てしまう事もありますので、信頼できるクリニックでリラックスして手術を受けて下さい。

歯周病

歯周病は高齢者に多く見られる口腔内疾患で、歯を失う原因となることがあります。

歯周病は、歯と歯茎の間に細菌が蓄積することで発生します。

最初は歯茎の赤みや腫れ、出血を伴うことがありますが、これが「歯肉炎」と呼ばれる初期段階です。

放置すると、「歯周病」へと進行し、歯を支える骨が徐々に破壊されます。

高齢者の場合、唾液の分泌減少や全身疾患の影響で口腔内環境が悪化しやすく、歯周病になりやすい状態にあります。

また、歯磨きが難しいためにプラーク(歯垢)がたまりやすく、その結果、歯周病が進行しやすくなります。

インプラント治療が高齢者にもたらすメリットとデメリットや注意点

高齢者のためのインプラントの重要性

高齢者の口腔健康維持において、インプラントは非常に有効な選択肢です。虫歯や歯周病で天然歯を失うケースが増える中で、インプラントは機能面や審美面で優れた解決の1つです。

特に高齢者の場合、適切な咬み合わせが全身の健康にも影響を与えるため、インプラントによる咬合機能の回復は栄養摂取や発音の改善、顔貌の維持にもつながります。

インプラント治療のメリット

メリットの画像

インプラント治療が高齢者にとってもたらす主なメリットには、長期間にわたる耐久性と自然な見た目があります。

実際の自分の歯のように機能し、見た目も自然ですので、人工の歯であることを意識することは少ないです。

また、取り外しの必要がないインプラントの場合の点に関しては、日常生活の質の向上に寄与すると考えられます。

さらに、周囲の健康な歯を削る必要がないため、残された歯を保護することができる点も大きな利点です。

インプラント治療のデメリットとリスク

デメリットの画像

しかし、インプラント治療にはいくつかのデメリットとリスクも存在します。

まず、高額な費用がかかることが挙げられます。

また、手術が必要であるため、手術に伴う感染症のリスクや、長期間の治療期間が必要な場合もあります。高齢者の場合、骨密度の低下や全身状態を考慮する必要があるため、全ての人がインプラント治療を受けられるわけではありません。

適切な診断とカウンセリングが重要です。

インプラントの長持ちする可能性

インプラントの持続性は、適切な施術とケアによって大幅に延長されます。一般的に、インプラントは15年以上の耐久性を持つとされていますが、個人の口腔衛生状態や生活習慣によって異なります。

定期的な歯科診療と日々の適切なケアが長期的な成功の鍵となるため、専門の指導のもとでの管理が推奨されます。

特に高齢者の場合、全身状態の変化に応じて、定期的なフォローアップが重要です。

通院が困難になった場合の対策を考える

介護されている女性

高齢になると、体の自由が利かなくなったり、外出が難しくなることもあります。そんな時にどのように対応すればよいのでしょうか。

通院が困難な状況にも対応可能なクリニックを選ぶ

まずは掛かりつけのクリニックに通院が困難になった場合の対策を聞くのが第一選択ですが、もし難しい場合は、自宅までの送迎サービスを提供しているクリニックや、訪問診療を行っている歯科医院を探しておきましょう。

自宅で簡単に行える方法を歯科医師や歯科衛生士に相談する

仮に手が不自由になってしまった場合は電動歯ブラシの使用がとても有効的です。

インプラントのメンテナンスや日常の口腔ケアについては家族も一緒に理解をしてもらうと良いでしょう。

高齢者向けのインプラント選択ガイド

高齢者が入れ歯を入れている画像

固定式?取り外し式?タイプ別の選択肢

固定式の場合

通常のインプラント治療の場合、手術を行ってから3ヶ月〜4ヶ月置いてインプラントと骨がしっかりとくっ付いている事を確認してから被せ物を作ります。


基本的な治療の場合、インプラントを埋め込んでから被せ物が入るまで5ヶ月〜半年
となります。

費用は一本あたりの平均値で20万円〜40万円が相場となります。

また、インプラント体と被せ物の費用が別になっているクリニックもあります。

出典元:日本口腔インプラント学会

インプラントと入れ歯を合わせる場合

上記でも述べたように、通常のインプラント治療の場合、手術を行ってから3ヶ月〜4ヶ月置いてインプラントと骨がしっかりとくっ付いている事を確認してから入れ歯を作ります。

入れ歯は作成に5、6工程ありますので、型取りから1ヶ月半〜2ヶ月程度で最終的な入れ歯を装着します

費用はインプラントの金額➕入れ歯となり100万円〜200万円程度が相場です。

インプラントの流れについて

初診・カウンセリング

歯科医師によるカウンセリングと検査を行い、インプラント治療が適しているかどうかを判断します。

患者さんの全身状態や内科的な疾患等を確認し、レントゲンやCT撮影を行い、骨の状態や歯肉の状態などを詳しく調べます。
歯周病の患者様は歯周病治療が優先になる場合もあります。

インプラントの説明
院長が患者さんにインプラントの説明をしている
治療計画の決定

step1の資料を元に医師が具体的な治療計画を決定します。
インプラントの種類や配置位置、必要な場合は骨造成が必要かどうかを決定します。
歯周病などによって骨が溶けてしまった部位には手術をする事が出来ませんので、インプラント手術を行う前にあらかじめ骨造成を行う事により、骨量や骨の厚さが増してインプラント手術を可能にする環境を作ります。
骨を作ってからは状態によって数ヶ月待機します。

自己血由来を用いた再生医療
自己血由来を用いた再生医療
インプラント手術(一次手術)

あごの骨にインプラント体を埋め込みます。局所麻酔で行うので、痛みを感じることはほとんどありません。手術時間は約1時間~2時間程度です。
インプラント体と骨が結合するまで、約3ヶ月~6ヶ月ほど待機します。
待機している間は今まで使用していた入れ歯や、仮歯を装着することが可能です。

かずなか歯科クリニック院長の手術の写真
アバットメント装着(二次手術)

アバットメントはネジ(インプラント)と上部構造(被せ物)をしっかりとつなぎ、自然な噛み心地や見た目を提供する小さいですがとても重要な部分です。
アバットメント装着手術時間は30分〜1時間程度です。

人工の歯(被せ物)の製作

アバットメントが装着されたら人工の歯(被せ物)の型取りをします。被せ物が入ってインプラント治療は終了です。

高齢者におけるインプラント治療後のメンテナンスとフォローアップ

インプラント治療後に特に注意したいのはインプラント周囲炎です。

インプラント周囲炎とは天然歯の歯周病と同じように歯茎が腫れたり膿が出てしまい、炎症症状が続くと骨が溶けて抜けてしまう症状で、歯周病よりも早いスピードで進行してしまう事が多いのが特徴です。

インプラントの構造は天然歯よりも複雑なので、プラーク(細菌)が溜まりやすく、歯石が付着してインプラント周囲炎になってしまいます。

定期的なプロフェッショナルケアとフォローアップの重要性

専門的な機械によるケア(PMTC)を受けている患者様の写真

専門的な機械によるケア(PMTC)を受けて頂きご自身では磨きづらい場所のプラーク除去を行います。

PMTCとは歯科医師や国家資格を持った歯科衛生士が(Professional )機械を使い(Mechanical )歯を(Tooth)クリーニング(Cleaning)する略です。

主に歯石取り、バイオフィルム(最近の塊)の除去、歯面清掃で歯をツルツルにする事により、バイオフィルムが付きにくくします。

セルフケアでは手の届かない歯と歯の間や歯周ポケットのプラークもクリーニングする事が可能です。

また、インプラントに歯石が付着してしまった場合も、特殊な機械で歯石を取ります。

自宅でのケア方法

フロスをしている女性の写真

セルフケアの基本はブラッシングです。インプラントの構造はとても複雑ですので丁寧なブラッシングを心がけて下さい。

しかし、歯ブラシだけでは不十分なのでデンタルフロスや歯間ブラシも必須となります。

デンタルリンスもバイオフィルムに働きかけてくれますのでとても有効的です。

まとめ

今回はインプラントが高齢者の日常生活にもたらす利点と、それに伴う潜在的なリスクやデメリットインプラント治療が入れ歯と比較してどのような違いがあるのか、そしてその治療を受ける際の問題点についても触れました。

高齢者のインプラント治療は、ケアの質を維持しつつ、老後の生活の質を向上させるための一つの有効な選択肢です。

より良い結果を得るためには、適切な事前の評価と適切なアフターケアが不可欠です。